島袋春美
助産師
沖縄県南城市を拠点に、母乳育児支援と産後ケアを専門とする助産師です。病院・市町村保健師での勤務経験を経て、母乳育児相談室『春』を開設しました。お母さんと赤ちゃんが心地よく過ごせるよう、母乳トラブルのケアや授乳姿勢のアドバイス、断乳・卒乳のサポートを行っています。
執筆者:母乳育児相談室 春 編集部
この記事でわかること
- 1
授乳に不安を感じる原因は、ホルモンの変化や体の疲れなど自分のせいではない
- 2
D-MER(不快性射乳反射)は体の仕組みによる反応で、愛情や性格の問題ではない
- 3
2週間以上気分の落ち込みが続く場合は産後うつの可能性があり、早めの相談が大切
「母乳がちゃんと出ているのか分からない」「授乳のたびに気分が沈む」…そんな不安を抱えていませんか?
産後の授乳に悩むのは、決して珍しいことではありません。この記事を読むことで、授乳期の不安を和らげるヒントが見つかります。
以下の内容についてご紹介します。
- 産後の授乳で不安を感じる5つの原因
- 授乳の不安を和らげる具体的な対処法
- 専門家に相談すべきタイミングの目安
焦らなくて大丈夫です。一緒に解決策を見つけていきましょう。
授乳に不安を感じている方は、想像以上に多くいらっしゃいます。「こんなにつらいのは自分だけ?」と孤独を感じる方もいますが、そうではありません。
産後間もない時期は、体の回復途上にありながら、慣れない育児に向き合う時期です。睡眠不足やホルモンバランスの変化も重なり、心身ともに不安定になりやすい状態といえます。
授乳がうまくいかないと感じたり、母乳が足りているか心配になったりするのは、多くのママが経験することです。「自分だけがうまくできない」と思わなくても大丈夫です。
この記事では、授乳期に感じやすい不安の原因と、具体的な対処法をお伝えします。一人で抱え込まず、最後まで読んでみてください。
授乳に不安を感じる背景には、さまざまな原因があります。原因を知ることで「自分のせいではない」と理解でき、気持ちが楽になることもあります。
ここでは、産後のママが授乳で不安を感じやすい代表的な5つの原因をご紹介します。心当たりがあるものがないか、確認してみてください。
母乳が足りているか分からない
母乳は目に見えないため、「本当に足りているのか」と不安になりやすいものです。赤ちゃんが頻繁に泣いたり、授乳時間が長かったりすると、母乳不足を疑ってしまう方も多いでしょう。
しかし、実際には足りているケースが多くあります。母乳が足りているかどうかは、以下のポイントで確認できます。
- 体重増加の目安:生後3ヶ月頃までは1日あたり25〜30g程度の増加が目安
- おしっこの回数:1日6回以上の濡れたおむつがあれば水分摂取は足りている
- 授乳後の様子:赤ちゃんが落ち着いて眠れているか
産後すぐは母乳量が少ないのは自然なことです。出産後2日目頃まではホルモンの影響で分泌が限られますが、赤ちゃんの吸う刺激によって徐々に分泌が促されていきます。
母乳量が安定してくるのは、産後1〜3ヶ月頃といわれています。この時期までは焦らず、赤ちゃんの様子を観察しながら授乳を続けてみてください。
授乳中に気分が落ち込む・不快になる(D-MER)
授乳を始めると、急に気分が落ち込んだり、不安感やイライラに襲われたりすることがあります。この現象は「D-MER(ディーマー)」と呼ばれ、正式には「不快性射乳反射」といいます。
D-MERとは、母乳が出る際の射乳反射の30〜90秒ほど前に、ネガティブな感情が現れる生理的な反応です。症状としては、不安感、悲しみ、胃の不快感、緊張、イライラなどがあり、人によっては吐き気を感じることもあります。
原因として考えられているのは、射乳反射に伴うドーパミンの一時的な低下です。母乳を分泌させるホルモン(プロラクチン)が働く際に、脳内のドーパミンが減少することで不快な感情が生じると推測されています。
これはママの性格や愛情の問題ではありません。 体の仕組みによって起こる反応であり、自分を責める必要はないのです。
D-MERは産後3ヶ月頃までに軽減することが多いとされていますが、授乳期間中続く方もいます。症状がつらい場合は、助産師や医療機関に相談することをおすすめします。
授乳がうまくいかない・乳頭が痛い
授乳時に乳頭が痛む、赤ちゃんがうまく吸いついてくれないといったトラブルは、産後の早い時期に起こりやすい悩みです。
乳頭の痛みや傷の原因として多いのは、赤ちゃんのくわえ方(ラッチオン)が浅いことです。浅いくわえ方では乳頭に負担がかかりやすく、出血を伴うこともあります。
また、乳頭の形状(扁平乳頭や陥没乳頭など)によって、赤ちゃんが吸いつきにくいケースもあります。乳腺炎への不安を抱える方も多いでしょう。
授乳がうまくいかないのは、ママと赤ちゃん双方にとって「練習が必要な時期」だからです。最初からスムーズにできる方のほうが少ないといえます。
抱き方や姿勢を工夫したり、授乳クッションを活用したりすることで改善することも多くあります。一人で試行錯誤を続けるよりも、助産師に直接見てもらいながら指導を受けることで、早期に解決できる場合があります。
産後の心身の疲労による不安
産後は、夜間授乳による睡眠不足と、出産後の体力回復が重なる時期です。慢性的な疲労は、心の状態にも影響を与えます。
産後のホルモンバランスは急激に変化します。妊娠中に高かったエストロゲンやプロゲステロンが急激に低下することで、気分が不安定になりやすくなります。
産後3日〜10日頃に現れる気分の落ち込みや涙もろさは「マタニティブルー」と呼ばれ、多くの方が経験するものです。マタニティブルーは一過性であり、通常は産後2週間程度で自然に落ち着いてきます。
ただし、2週間以上気分の落ち込みが続く場合は「産後うつ」の可能性があります。産後うつは適切なサポートや治療が必要な状態ですので、早めに医療機関や専門家に相談することが大切です。
周囲からのプレッシャーや情報過多
「母乳で育てるべき」という周囲からの言葉や、社会的な雰囲気がプレッシャーになることがあります。悪意がなくても、何気ない一言が心に重くのしかかることもあるでしょう。
SNSで目にする「完璧に見えるママ」の姿と自分を比較してしまい、焦りや劣等感を感じる方も少なくありません。しかし、SNS上の情報は一部分を切り取ったものであり、実際の育児の大変さは見えにくいものです。
インターネット上には母乳育児に関する情報があふれていますが、何が正しいのか分からず混乱することもあります。相反する情報を見て、余計に不安が増してしまうこともあるでしょう。
育児に「正解は一つではない」ということを心に留めておいてください。ママと赤ちゃんにとって無理のない方法を見つけることが、何より大切です。
身近に相談できる人がいない場合は、地域の子育て支援センターや保健センターを活用することも選択肢の一つです。
授乳の不安を和らげるために、自分でできることから始めてみましょう。すべてを完璧にこなす必要はありません。
ここでは、日常の中で取り入れやすい6つの対処法をご紹介します。できそうなものから、無理のない範囲で試してみてください。
「足りているサイン」を確認して安心する
母乳が足りているかどうかは、赤ちゃんの様子を観察することで確認できます。数字だけに振り回されず、赤ちゃん全体の様子を見ることが大切です。
確認すべきポイントは以下の通りです。
| 確認項目 | 目安 |
|---|---|
| 体重増加 | 生後3ヶ月頃まで1日25〜30g程度 |
| おしっこの回数 | 1日6回以上の濡れたおむつ |
| 授乳後の様子 | 落ち着いて眠れている、機嫌が良い |
体重測定は週1回程度で十分です。毎日測定すると、日々の変動に一喜一憂してしまい、かえって不安が増すこともあります。
授乳後に赤ちゃんが落ち着いている様子があれば、ひとまず安心して良いでしょう。心配が続く場合は、助産師や小児科で相談してみてください。
授乳姿勢を工夫してみる
授乳姿勢を変えることで、ママの体の負担が軽減したり、赤ちゃんが吸いやすくなったりすることがあります。
代表的な授乳姿勢には以下のようなものがあります。
- 横抱き:基本的な抱き方で、多くの方が最初に試す姿勢
- 縦抱き:赤ちゃんを縦に抱えて授乳する方法
- フットボール抱き:赤ちゃんを脇に抱える姿勢で、帝王切開後の方にも向いている
授乳クッションやタオルを活用して、ママの腕や肩への負担を減らす工夫も有効です。
赤ちゃんの口が大きく開いた瞬間に、乳輪まで深くくわえさせることがポイントです。浅いくわえ方だと乳頭に負担がかかり、痛みの原因になります。
自分だけで試行錯誤するのが難しい場合は、助産師に直接見てもらいながらアドバイスを受けることで、コツをつかみやすくなります。
ミルクを活用することも選択肢の一つ
母乳とミルクを併用する「混合栄養」は、決して「失敗」ではありません。ママの心身の健康を保つことが、赤ちゃんにとっても大切です。
厚生労働省の「授乳・離乳の支援ガイド(2019年改定版)」でも、母乳だけにこだわらず、必要に応じて育児用ミルクを活用することの重要性が示されています。ミルクを足しても赤ちゃんは健やかに育ちます。
ミルクを活用することで、以下のようなメリットがあります。
- パートナーや家族が授乳を代わることができる
- ママが休息を取る時間を確保しやすい
- 母乳量への不安が軽減される
「母乳だけで育てなければ」という思い込みにとらわれず、ご自身と赤ちゃんに合った方法を選んでください。授乳方法の選択で、ママの愛情が測られることはありません。
休息と「頼ること」を優先する
産後の体は、想像以上にダメージを受けています。休息を取ることは、怠けているのではなく、回復のために必要なことです。
赤ちゃんが眠っているときは、家事よりも一緒に休むことを優先してみてください。細切れでも睡眠を取ることで、心身の疲労が軽減されます。
パートナーや家族には、「お皿を洗ってほしい」「洗濯物を畳んでほしい」など、具体的に伝えることが大切です。「何か手伝おうか」と聞かれたときに「大丈夫」と答えてしまいがちですが、遠慮せずにお願いしてみましょう。
家事は最低限で構いません。掃除は数日に1回、料理は簡単なものや惣菜を活用するなど、完璧を求めないことが大切です。
「頼ること」は弱さではありません。 周囲の力を借りながら、この時期を乗り越えていきましょう。
つらい気持ちを言葉にする
「つらい」「助けてほしい」という気持ちを、言葉にして伝えることは大切です。一人で抱え込んでいると、気持ちがどんどん重くなってしまいます。
パートナーや家族、友人など、話を聞いてくれる人に今の気持ちを話してみてください。解決策を求めなくても、話すだけで気持ちが軽くなることがあります。
身近に話せる人がいない場合は、以下のような場所も活用できます。
- 地域の子育て支援センター:同じ月齢の赤ちゃんを持つママと交流できる
- 保健センター:保健師に育児の相談ができる
- 産後ケア施設:専門スタッフのサポートを受けられる
「こんなことで相談していいのかな」と思う必要はありません。小さな不安でも、早めに誰かに話すことで、大きな悩みになる前に対処できることがあります。
専門家(助産師・母乳外来)に相談する
授乳の悩みは、専門家に相談することで解決への道が開けることが多くあります。「相談するほどではない」と思わず、早めに頼ることをおすすめします。
相談できる場所には以下のようなものがあります。
- 母乳外来:病院や産院に設置されている専門外来
- 助産院:助産師による個別ケアを受けられる
- 産後ケア施設:宿泊や日帰りで専門スタッフのサポートを受けられる
助産師による乳房ケアや授乳指導を受けることで、自己流では気づかなかった改善点が見つかることがあります。
また、多くの自治体では「産後ケア事業」として、費用の一部を補助する制度を設けています。お住まいの市区町村の窓口や、保健センターで確認してみてください。
相談は「早すぎる」ということはありません。 不安を感じたら、気軽に専門家を頼ってください。
【沖縄県にお住まいの方へ】
「母乳育児相談室 春」では、助産師による訪問・通所での授乳相談、乳房ケアを行っています。「ちゃんと母乳が出ているか見てほしい」「授乳姿勢を教えてほしい」など、どんな小さな不安でもお聴きします。一人で悩まず、お気軽にご相談ください。
セルフケアで対応できるレベルの不安もあれば、専門家の介入が必要な状態もあります。以下のような症状がある場合は、早めに医療機関を受診してください。
産後うつの可能性があるサイン
以下の症状がある場合は、早めに医療機関や専門家に相談してください。
- 2週間以上、気分の落ち込みが続いている
- 赤ちゃんへの愛情が感じられない
- 「消えてしまいたい」「死にたい」と思うことがある
- 眠れない、食欲がない状態が続いている
産後うつは適切な治療やサポートによって回復できる状態です。我慢せず、早めに相談することが大切です。
乳房トラブルで受診が必要なサイン
以下の症状がある場合は、すぐに医療機関を受診してください。
- 38度以上の発熱がある
- 乳房に激しい痛みや発赤がある(乳腺炎の可能性)
- しこりが取れない、痛みが増している
乳腺炎は早めの対処が重要です。放置すると重症化することがあるため、症状が出たら早めに受診してください。
「迷ったら相談」で構いません。自己判断で我慢を続けず、専門家の力を借りてください。
医療情報について
この記事は一般的な情報提供を目的としており、医療上のアドバイスを代替するものではありません。症状が気になる場合は、必ず医師または助産師にご相談ください。
産後の授乳に関して、多くの方が疑問に感じる内容をQ&A形式でまとめました。気になる項目があれば、参考にしてみてください。
Q. 授乳中に不安や気持ち悪さを感じるのはなぜ?
授乳中に不安感や気持ち悪さを感じる場合、D-MER(不快性射乳反射)の可能性があります。
D-MERは、母乳が出る際の射乳反射に伴うホルモン変動(ドーパミンの一時的な低下)が原因と考えられています。症状は射乳反射の数十秒前に現れ、数分で治まることが多いです。
これはママの愛情や性格の問題ではなく、体の仕組みによる反応です。授乳後は気持ちが落ち着くことが多いですが、症状がつらい場合は助産師や医療機関に相談してください。
Q. 産後のメンタルはいつ頃落ち着きますか?
産後に現れる気分の落ち込みや涙もろさ(マタニティブルー)は、多くの場合、産後2週間程度で落ち着いてきます。
ただし、2週間以上つらさが続く場合は、産後うつの可能性があります。産後うつは適切なサポートや治療が必要な状態ですので、早めに相談することが大切です。
症状の回復には個人差が大きいため、「いつまでに治らなければならない」と決めつける必要はありません。つらさが続く場合は、医療機関や保健センターに相談してください。
Q. 母乳が出なくて赤ちゃんに申し訳ない気持ちになります
産後すぐは母乳量が少ないのは自然なことであり、ご自身を責める必要はありません。
母乳の分泌は、頻回授乳、十分な水分摂取、バランスの取れた食事、休息によって促されます。産後1〜3ヶ月頃には母乳量が安定してくることが多いです。
ミルクを足しても、赤ちゃんは健やかに育ちます。授乳方法によって、ママの愛情が測られることはありません。
「申し訳ない」と感じる気持ちは、それだけ赤ちゃんのことを大切に思っている証拠です。母乳量に不安がある場合は、助産師や母乳外来で相談してみてください。改善のヒントが見つかることもあります。
産後の授乳に不安を感じることは、多くのママが経験することです。不安の原因は、ホルモンの変化や体の疲れ、慣れない育児へのプレッシャーなど、ママ自身のせいではありません。
この記事でお伝えした対処法を参考に、できることから少しずつ取り入れてみてください。セルフケアで対応できることもあれば、専門家の力を借りたほうが良い場合もあります。
「完璧なママ」を目指す必要はありません。赤ちゃんにとって一番大切なのは、ママが心身ともに健やかでいることです。
つらいときは、一人で抱え込まず、誰かを頼ってください。あなたは一人ではありません。
授乳の不安、一人で抱え込まないでください。
母乳育児相談室 春では、ママ一人ひとりの状況に寄り添い、温かいケアを提供しています。授乳がつらい、母乳が出ない、乳房が痛いなど、どんなお悩みでもお気軽にご相談ください。訪問ケアも対応しております。
この記事は一般的な情報提供を目的としており、医療上のアドバイスを代替するものではありません。
母乳育児や産後のメンタルヘルスについて不安がある場合は、必ず医師または助産師にご相談ください。
記事の内容は2025年12月時点の情報に基づいています。
まとめ
産後の授乳に不安を感じることは、多くのママが経験することです。一人で抱え込まず、専門家の力を借りながら、ご自身のペースで授乳を続けていきましょう。
